緩和時間を濡れ性や界面特性評価に用いる理論

既存の評価法では不可能であった 僅かな違いを数値化します

低磁場NMRにより、粉体の濡れ性や粒子界面の状態変化を比較評価します。

粉体の濡れ性評価法としては、接触角液滴法、浸透速度法、沈降容積法、湿潤熱測定法などが知られています。
低磁場NMRによる評価は、簡便であり、測定時間も約20秒程度と短時間で行えることが特長です。

また、試料を均一にNMRチューブへ分取することができれば、装置にセットするだけで測定でき、測定者による差を抑えながら高い再現性を得ることができます。

粉体表面の化学的な違い、例えば官能基の数や種類、分散媒の種類、添加剤の吸着状態の違いによって、粉体の濡れ性や粒子界面の状態は変化します。
濡れ性や界面状態が変化すると、粒子表面に拘束された液体層の厚みや緩和速度も変化します。

濡れ性と緩和時間の関係

粒子界面に拘束される溶媒量が増えるほど、微粒子分散体の緩和時間は短く得られます。

濡れ性と緩和時間の関係

比表面積や粒子径に変化がない場合、平均緩和速度 Rav は、主に粒子界面特性の影響を受けます。 濡れ性や界面特性は、 「緩和時間を分散性や比表面積に換算する理論」 で示した式⑤・式⑥によるRsp値、またはRno値(Relaxation Number)を用いて比較することができます。

Rsp値・Rno値が大きいほど、粒子界面により多くの溶媒を拘束していることを示します。 すなわち、粒子界面の濡れ性が良いと評価することができます。

濡れ性が良いほど、粒子界面に拘束される溶媒量は増加し、微粒子分散体として得られる緩和時間は短くなります。

Rsp値と比表面積の関係

比表面積が異なる粒子についても、緩和時間から界面特性の違いを比較できます。

下図は、緩和時間T2を測定して算出したRsp値と、微粒子比表面積との関係を示したものです。 3種類の粒子をそれぞれ水に分散させ、T2を測定しています。

微粒子界面の濡れ性が同一である場合、比表面積が異なる粒子であっても、Rsp値と比表面積との関係には直線性が得られます。

Rsp値と比表面積の関係

グラフから読み取れること

このグラフでは、アルミナ、シリカ、ポリスチレンラテックスの順に、粒子界面の濡れ性が良いことが分かります。 このように、比表面積の異なる粒子についても、緩和時間を測定することで界面特性の違いを評価できます。

評価において注意すべきこと

界面特性の変化と分散状態の変化が、同時に緩和時間へ影響する場合があります。

上図のグラフのように、微粒子の大きさの違いを把握できている場合には、界面特性の違いを比較することができます。
一方、微粒子表面を改質した粉体を用いて濃厚分散体を作製する場合や、微粒子分散体にポリマーなどの分散剤を加えて界面特性を変化させる場合には、注意が必要です。

「低磁場NMR(パルスNMR・TD-NMR)とは」 でも説明しているように、濡れ性の違いによる変化、すなわち微粒子界面の化学的な違いと、分散性の違いによる変化、すなわち分散体の物理的な違いは、緩和時間のみでは区別することが困難です。

濡れ性が良くなると、短い緩和時間を有する溶媒量が増加します。
しかし同時に、分散性が良くなる場合にも、短い緩和時間を有する溶媒量が増加することが予測されます。

つまり、微粒子界面の化学的な違いと、分散体の物理的な違いは、同時に生じることがあります。
濡れ性などの界面特性が異なる場合、緩和時間には、化学的な違いによる変化だけでなく、物理的な違いによる変化も含まれることを踏まえて評価する必要があります。

参考文献

1)福山紅陽ほか, 微粒子スラリーの分散・凝集状態と分散安定性の評価, サンエンス&テクノロジー, p.167,(2016)

2)武井孝ほか, 粉体の表面処理・複合化技術集大成-基礎から応用まで-, テクノシステム, p.335(2018)

3)浅原照三, 早野茂夫, 粉体のぬれを中心とした湿潤について, 油化学, 第6巻第7号, p.404-410(1957)

4)久野洋, 粉体の濡れ, 粉体および粉末冶金, 第13巻第2号, p.67-72(1966)

5)D. Fairhurst, R. Sharma, S. Takeda et al., Fast NMR relaxation, powder wettability and Hansen Solubility Parameter analyses applied to particle dispersibility, Powder Technology, 377, 545-552(2021)

6)B. Cattoz, T. Cosgrove, M. Crossman, S. W. Prescott, Surfactant-mediated desorption of polymer from the nanoparticle Interface, Langmuir, 28, 2485-2492(2012)

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