緩和時間を濡れ性や界面特性評価に用いる理論

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既存の評価法では不可能であった僅かな違いを数値化します

粉体の濡れ性評価法としては接触角液滴法1)、浸透速度法2)、沈降容積法3)、湿潤熱測定法4) 等が知られているが、低磁場NMRによる評価は簡便かつ測定時間も20秒程度と短時間である。また試料を均一にNMRチューブに分取する事ができれば装置にセットするだけで人為差なく高い再現性が得られることも特徴である。

粉体表面の化学的違い(官能基の数や種類)や分散媒の種類、もしくは添加剤の吸着の違いで粉体の濡れ性や粒子界面の状態は変化する。濡れ性や界面の状態が変化すると粒子表面に拘束された液体層の厚みや緩和速度は変化する。下記にイメージ図を示す。

濡れ性と緩和時間


比表面積や粒子径に変化が無い場合、平均緩和速度(Rav)は粒子界面特性の影響のみを受ける。濡れ性や界面特性は緩和時間測定による分散性評価の項に示した式⑤式⑥にてによるRsp値やRno値(Relaxation Number)にて比較可能である。値が大きいほど粒子界面に多くの溶媒を拘束する。つまり濡れ性が良いと言う事ができる4)5)6)

下記グラフは緩和時間T2を得て算出したRsp値と微粒子比表面積の関係である。3種類の粒子を水にそれぞれ分散させてT2を得た。微粒子界面の濡れ性が同一である場合、比表面積が異なる粒子であっても傾きは直線性が得られる。下記の場合アルミナ、シリカ、ポリスチレンラテックスの順番で濡れ性が良いことがわかる。

Rsp値と比表面積
 
 
 上図グラフのように微粒子の大きさの違いを把握できていれば問題はないが、例えば微粒子表面を改質した粉体を用いて濃厚分散体を作成したり、微粒子分散体にポリマーなどの分散剤を加えて界面特性を変化させることは珍しくないだろう。その場合、注意すべき点は原理や基礎を記載したページにも記載したが、濡れ性の違いによる変化(微粒子界面の化学的違い)と分散性の違いによる変化(分散体の物理的違い)は緩和時間のみでは区別する事が困難である事だ。濡れ性が良くなると短い緩和時間を有した溶媒量も増加するが、同時に分散性もよくなり短い緩和時間が増加する事が予測される。つまり微粒子界面の化学的違いと分散体の物理的な違いが同時に生じることが多いだろう。濡れ性などの界面特性が異なる場合、緩和時間は化学的違いによる変化だけでなく同時に物理的な違いによる変化も含まれる事を忘れてはいけない。



【参考文献】

1)福山紅陽ほか, 微粒子スラリーの分散・凝集状態と分散安定性の評価, サンエンス&テクノロジー, p.167, (2016)

2)武井孝ほか、粉体の表面処理・複合化技術集大成-基礎から応用まで,テクノシステム, p335(2018)

3) 浅 原 照 三, 早 野 茂 夫,粉体 のぬれ を中心 とした湿潤について, 油化学,第6巻第7号, p404-410(1957)

4) 久野洋, 粉体の濡れ 「粉体 および粉末冶金 」第13巻 第2号, p67-72(1966)

5) D. Fairhurst, R. Sharma, S. Takeda et al., Fast NMR relaxation, powder wettability and Hansen Solubility Parameter analyses applied to particle dispersibility, Powder Technology, 377,545-552(2021)

6) B. Cattoz, T. Cosgrove, M. Crossman, S.W. Prescott, Surfactant-mediated desorption of polymer from the nanoparticle Interface, Langmuir, 28, 2485–2492, (2012)

測定事例のご紹介

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