緩和時間による分散性評価とは

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緩和時間から比表面積や分散度を計算

レーザー回折法や動的光散乱法などの粒子径分布は得られた散乱・回折強度を複雑なフィッティングアルゴリズムにより解析し粒子径として算出するが1)、緩和時間は原理や基礎を記載したページにある式①を変形した式②に示すように直接的な計算で比表面積に換算可能である2)

 Rav (= 1/Tav):平均緩和速度(平均緩和時間の逆数)
       *微粒子分散体の緩和速度:自由な溶媒分子の緩和速度と拘束された溶媒分子の緩和速度の和 
 ψp :溶媒体積に対する粒子体積比
 S :単位質量当たりの表面積(比表面積)
 L   :粒子界面に拘束された溶媒の厚み
 ρ:粒子密度
 R
粒子界面に拘束された溶媒の緩和速度
 R:自由な状態(バルク状態)にある溶媒の緩和速度

ここで と定義する。

Kaは粒子界面と溶媒との化学的性質に依存して変化する。この値を用いる事で式②は以下の様に示すことが出来る。

 

つまり比表面積は以下の式で示される。


Rspは緩和速度比として表記する。本値はRno値(Relaxation Number)と表現することもある3)

 


式⑤は下記の様に示すことも可能である4)5)6)

 


  

パルスNMRによる比表面積は絶対値の測定が可能なガス吸着法と同様に、吸着した液相を一層吸着と仮定3)しているが粒子界面の化学的特性の違いや分散媒の種類により拘束される液相の厚みや拘束された液体の緩和速度は異なる。Ka値は実際に溶媒が接触している比表面積を用いて算出する。例えば、シリカの場合シアーズ法を用いることで実際に液体と接している面積を得る事ができる。もしくは推定法として動的光散乱法、遠心沈降法、レーザー回折法、および顕微鏡による粒子径計測から計算する方法もある。粒子径から液体が接触している比表面積を算出する場合は体積基準分布のd10値を用いる事が適している。これはパルスNMRにより得られた比表面積は小さな粒子を非常に敏感に検知するからである4)

同一の粒子と分散媒の組み合わせ(例:解砕工程など)の比表面積変化を評価する際は、パラメーターが判らなくとも緩和時間のみでも比較可能である2)。下記は分散時間が異なる例のイメージ図である。


微粒子を分散させるにはまず溶媒に微粒子を投入するか微粒子に溶媒を加えていく。たとえ表面に自己分散型の特性を付与させていたとしても濃厚状態にて微粒子が勝手に分散していくことはないだろう。何らかの凝集体を形成している。物理的な力を加えることにより初めて分散する。イメージ図は分散時間を変えた際の様子である。継時により徐々に凝集がほぐれ微粒子表面に溶媒が接する面積が増加している。つまり微粒子表面で拘束された溶媒が増加している。凝集がほぐれ、分散することで短い緩和時間を有した溶媒が増加し、微粒子分散体の緩和時間が短くなる。

下記に分散時間が異なる例を示す。あくまでも説明の為に作成した表であり実データではない。ただこの様な結果は一般的である。実際の測定例はアプリ―ケーション項に示す。
分散体は下記の組成であるとする。

溶媒:水(密度:0.997g/cm2)
粒子:グラファイト(密度:2.26g/cm2)
粒子濃度:50wt%
粒子のBET比表面積:350m2/g



分散時間の経過と共に、緩和時間が変化している。180分の分散時に最も緩和時間が短い。0分から180分までは粒子界面に拘束された短い緩和時間を有した溶媒が増加していると言えるだろう。緩和時間が短くなるにつれ分散性が高くなっていると予測する事が出来る。しかし300分では緩和時間が長く得られた。これは分散時間が長時間であったり、分散強度が強すぎる場合にみられることが多い。粒子界面に拘束された短い緩和時間を有した溶媒が180分より減少していると言えるだろう。つまり分散性が悪くなった。過分散の状態であると予測する事が出来る。
 このように緩和時間のみから分散性の予測は可能である。

 緩和時間を式④から比表面積に換算する事も可能である。
下記グラフは分散の経過時間と緩和時間および比表面積の関係である。
比表面積は最も緩和時間が短くなった180分での比表面積を350m2/gとしKa値を式④から仮定した。粒子や溶媒密度、粒子濃度から粒子体積比を得て計算したKa値は0.000029となる。この値を用いて分散時間が異なる分散体の緩和時間からそれぞれの比表面積Sを算出した。
つまり得られた比表面積はあくまでも相対値である。別途Ka値を得る事が出来れば比表面積といえるだろう。比表面積相対値は最も緩和時間が短い180分で最大であり、300分では小さくなっている事がわかる。緩和時間のみの結果から予測した考察と同一である。
 ただ、粒子体積比が判らなくとも、Ka値が任意の値であっても同一の結果が得られるので比表面積相対値に換算する際も粒子密度、溶媒密度、粒子濃度などのパラメーターは特に重要ではない。



比表面積相対値として比較してもよいが、記載単位から絶対値であるとミスリードを招く可能性があると懸念する。算出される比表面積が相対値である場合は混乱を招かないためにも、比表面積ではなく分散度(%)として比較することも提案する。
下記グラフは最も緩和時間が短く得らえた180分での分散度を100%としている。式④を用いておりS=100としKaを決定し比較した。



緩和時間から比表面積を算出する本手法はKa値の算出が難しい場合が多く、あくまでも比表面積は相対値であることに注意しなければならない。しかし、光を用いない事から黒色であっても希釈せずに濃厚分散体の分散性を簡単に比較する事が可能である。本手法は相対比較ではあるが濃厚分散体の評価に有用であると考える。

【参考文献】

1) M. Kerker, Scattering of Light and Other Electromagnetic Radiation, Academic Press, New York,(1969)
2) David Fairhurst, Terence Cosgrove, Stuart W. Prescott, Relaxation NMR as a tool to study the

dispersion and formulation behavior of nanostructured carbon materials, Magnetic Resonance in Chemistry, 54, 521-526(2016)

3) 宮原稔ほか、粉体の表面処理・複合化技術集大成-基礎から応用まで-, テクノシステム,p295, (2018)

4) D. Fairhurst, NMR Relaxation: Its Relevance to the Measurement of the Wetted Surface Area of Particulate Suspensions, Mageleka White Paper 1, (2020)
5) D. Fairhurst, R. Sharma, S. Takeda et al., Fast NMR relaxation, powder wettability and Hansen Solubility Parameter analyses applied to particle dispersibility, Powder Technology, 377,545-552(2021)

6) Catherine L. Cooper, Terence Cosgrove, Jeroen S. van Duijneveldt, Martin Murray Stuart W. Prescott, The use of solvent relaxation NMR to study colloidal suspensions, Soft Matter, 9, 7211–7228 (2013)

 

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